東京地方裁判所 昭和25年(ワ)7162号 判決
原告 株式会社東京貿易商会
被告 三越縫製株式会社 外一名
一、主 文
一、被告三越縫製株式会社及び被告(破産管財人)は各自原告に対し、金百万円並びに被告三越縫製株式会社は昭和二十六年七月二十九日以降年五分の割合にて、被告(破産管財人)は昭和二十五年十月十六日以降年六分の割合にて各右完済に至るまで、損害金を支払うべし。
二、訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言をもとめその請求の原因として、(一)被告株式会社三越縫製工場は昭和二十五年九月二十日三越縫製株式会社(以下単に被告会社と記する)と商号変更をし、同年十月四日その旨の登記をしたものである。(二)右被告会社は昭和二十五年七月二十五日満期日昭和二十五年十月十五日、振出地支払地共に東京都品川区、支払場所、株式会社富士銀行品川支店、受取人竹内商会、手形金額、百万七千円の約束手形一通を振出し、これを竹内義行に交付した。(三)右竹内は右約束手形を昭和二十五年八月中旬支払拒絶証書の作成義務を免除した白地裏書によつて原告に裏書譲渡し、原告はこれを同月十五日朝日信託銀行に白地裏書により譲渡した。(四)右約束手形は、満期日の翌日なる十月十六日右所持人の右銀行から手形交換所を通じ支払場所たる株式会社富士銀行品川支店に呈示したが、右竹内は右手形金は同人が間もなく償還するから一時原告に於て買戻されたいとの懇請があつたので、原告は同日株式会社富士銀行品川支店に手形金額を支払つて、右約束手形を受戻して再び右手形の所持人になつた。(五)よつて、原告は、振出人及び裏書人である右被告等に対し右手形金の中金七千円は右竹内より一部償還があつたので、残り百万円について各自にその支払を請求する次第であると述べ、被告会社の答弁に対し、被告会社は信義則並びに禁反言則により本件手形金の支払を拒むことはできない。即ち昭和二十五年八月中旬、原告会社が右竹内より裏書譲渡を受けたのは、本件約束手形の外に振出日振出地支払地振出人受取人を同じくする他の約束手形二通あつたが、本件約束手形を除き、他の二通の約束手形は各支払期日にいずれも支障なく支払われた。よつて、被告会社の主張する如く、本件約束手形が偽造であるとするなら他の右二通の約束手形も偽造であると解せざるを得ないのに右二通の偽造である事を知りつつ被告会社が自己の資金をもつて支払つた以上、本件約束手形についても、偽造を主張するのは信義則並びに禁反言則により、できないと述べ、
予備的請求原因として本件手形が訴外諸角一雄の偽造によるものであるとしたら同訴外諸角は当時被告会社の経理課長として、金銭出納事務、被告会社振出の手形又は小切手発行事務等を担当していたが、昭和二十五年七月中右訴外諸角は右竹内と共謀の上、行使の目的をもつて、被告会社総務部長保管の「株式会社三越縫製工場代表取締役、常務取締役三井季夫」なるゴム印および社印、並びに代表者取締役三井季夫保管の代表者印を盗用し、本件手形を偽造し、これを右竹内に交付した。同年八月頃、右竹内は商品納入代金として被告会社から受取つたものと詐りて、訴外松井実を介し、原告会社に手形割引の申込をして来たので、原告会社は右松井をして被告会社に電話により確かめさせたところ、訴外諸角は被告会社の経理課長として本件約束手形は支払期日に相違なく支払われる旨明言したので原告会社はこれを信じて右竹内より、本件手形を白地裏書によりこれを取得し、原告は更に訴外朝日信託銀行に白地裏書により譲渡した。その後、本件手形の満期日の翌日である同年十月十六日、本件約束手形は手形交換所に支払のため呈示されたが偽造の故をもつて支払拒絶となり、朝日信託銀行に返却された。原告は同信託銀行に対する償還義務を免れるため、同銀行に代つて支払担当者富士銀行品川支店に金百万七千円を支払つて、本件手形を受戻した。右によりて、原告会社は、訴外諸角の故意又は過失による不法行為によつて右手形金に相当する損害を被つたものであり、同人は被告会社の事業の執行について右の通り原告会社に損害を生ぜしめたものであるから、被告会社は右諸角の使用者として右損害賠償として金百万円及びこれに対する昭和二十六年七月二十九日以降完済迄年五分の割合の金額を支払うべき義務があると陳述した。<立証省略>
被告会社訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張事実中(一)は認める。(二)は否認する。(三)(四)は不知(五)は否認する。
抗弁として本件手形は元被告会社経理課長であつた訴外諸角一雄が取締役三井季夫の印鑑を盗用し、その署名を偽造して振出した偽造手形であるから被告会社は本件手形について手形上の義務を負担するものでない。
次に原告の予備的請求原因に対しては本案前の抗弁として原告は従来約束手形に基いて手形債権を請求していたが、昭和二十六年七月二十八日の口頭弁論期日において新に訴外諸角一雄の不法行為を原因として使用者である被告会社に対し損害賠償の請求を附加したが、これは訴の基礎に変更があるから許されない。仮にしからずとするも本件において右の訴の変更を許すときは著しく訴訟手続を遅延せしめるから許されないと述べ、本案に対する答弁として、次のように陳述した。(1) 本件手形は訴外諸角が竹内の金融を図るため手形用紙に会社名、代表者名のゴム印及び社印並びに三井の印鑑を盗用して押捺し竹内に交付したに過ぎない。その他は竹内が手形の所要事項を記入し、形式上の要件を備えた手形を完成し、且これを原告に裏書譲渡しその際原告から手形金を竹内に交付したとしてもそれは全て竹内の単独行為であつて諸角は介在しない。仮に昭和二十五年十月十六日原告が竹内の依頼により手形金を支払つて手形を受戻したため右手形の決済に要した金額が原告の損害であるとしてもそれは竹内の懇請により生じたものであつて諸角の前記偽造とは因果関係がない。(2) 被告会社においては手形を振出すときは代表取締役自身の手により完成させていたのであつて、右代表者の三井の印鑑は同人自らこれを保管し、会社名、代表者名のゴム印及び社印も総務部庶務課の保管に係り経理課の保管ではなかつた。従て諸角の右の行為は担当する職務についてなされたものでない。即ち被告の企業組織内で行われたものでないから、民法第七百十五条に言う「使用者の事業の執行に付て」なされたものと看ることはできない。(3) 仮に諸角の行為につき民法第七百十五条の適用があるとしても、被告会社は諸角の選任及び事業の監督について懈怠がないから賠償の責任がないとのべ、又被告会社の関知しない偽造手形の流通をもつて禁反言則信義則を適用するは失当であると附陳した。<立証省略>
被告(破産管財人)は、原告の請求を棄却するとの判決をもとめ、答弁として竹内義行は昭和二十六年五月二十二日東京地方裁判所で破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された。本件原告主張の約束手形振出しの点は不知、手形裏書の点は認めるが、右手形は竹内が買戻によつて交付を受け取得したものであるから、原告会社は本件手形の正当なる所持人ではないと述べた。<立証省略>
三、理 由
第一、原告の被告会社に対する手形上の請求の当否について審理する。
(一) 被告が元株式会社三越縫製工場と称したが、昭和二十五年九月二十日現在の商号に変更したことは当事者間に争がない。
(二) 甲第三号証(本件約束手形)の手形の振出人である被告会社の代表者の記名並びその名下の印影が被告会社の代表者の記名並びその印影と同一であることは被告会社の認めるところである。
(三) 被告会社は右の記名捺印は被告会社経理課長諸角一雄の偽造したものであると主張するので、判断するに
証人竹内義行、同諸角一雄、同三井季夫の各証言、成立に争のない乙第一、二号証を綜合すると次の通り認定することができる。
昭和二十五年八月頃当時被告会社の経理課長であつた諸角一雄は竹内義行から金融の懇請を受けたので約束手形用紙に被告会社総務部保管の被告会社の社印並びゴム印を勝手に押捺し、代表者三井季夫の不在中に同人保管の同人の印鑑を机の抽出から取り出してこれを盗用して右三井季夫名下に押捺して右代表者の記名捺印をして右署名を偽造しこれを竹内義行に交付し、竹内はこれに金額百万七千円その他手形の所要事項を補充して被告会社振出の金額百万七千円の本件約束手形一通の偽造をしたことが明かである。
原告の全立証による右認定は動すことができない。
従て右手形に対する被告会社の振出人としての署名に代る記名捺印は右諸角一雄が何等代理権限なくして唯本人たる被告会社の名義を冒用したものであるから、右署名は偽造であると謂わねばならない。よつて原告主張の本件約束手形については被告会社は何等手形行為をしていないのであるから、原告が右手形を善意で取得したとしても被告会社に対し手形上の権利を取得することはできないものと言わねばならない。
(四) 原告は被告会社は信義則並び禁反言則上本件約束手形の偽造を主張することは許されないと言うので按ずるに前掲諸角、竹内両証人の証言によると原告は本件約束手形と同時に振出日、振出地、支払地を同じくする金百万円、満期日昭和二十五年九月二十一日とする約束手形一通、及び振出日、振出地、支払地、金額を同じくする満期日昭和二十五年十月五日の約束手形一通合せて三通の手形を右竹内から手形割引のため裏書譲渡を受けたが、右二通の手形はそれぞれ右満期日に右竹内と諸角とが相談の上被告会社とは関係なく金策してこれを決済をしたことが認められる。右の通り右二通の手形の決済には被告会社は関与しなかつたのである故原告主張の信義則並び禁反言則の法理から言つても被告会社は本件手形の偽造を主張するに何等妨げないものと言わねばならない。
(五) 以上の次第であるから原告の本件手形に基く被告会社に対する手形上の請求は理由ないものと言うべきである。
第二、次に原告の予備的請求の当否について審按する。
(一) 被告会社は本案前の抗弁として原告が不法行為を原因として被告会社に対して使用者としての損害賠償の請求を附加するは訴の基礎を異にするからできないと主張するので、この点について稽えてみるに原告の本件手形上の請求も、又民法第七百十五条による使用者責任としての損害賠償の請求も結局その請求原因として法律的構成をする以前に還元した生活関係なり、経済上の利益なりは同一である故請求の基礎には何等変更がないものと言うべきであるから、原告が右新なる請求原因を附加することは適法であると言わねばならない。又被告会社は右新請求原因を附加することを許すときは著しく本件訴訟手続を遅滞せしめると主張するけれ共、従来の訴訟資料は殆ど新請求原因の審理に当つて訴訟資料として利用することができる関係にあるから、本件訴訟も実際上何等遅滞せしめるものでない故この点の被告会社の主張はいずれも採用しない。
(二) よつて原告の予備的請求原因の内容について審按するに被告会社の当時の経理課長諸角一雄が竹内義行と共同して原告主張の本件約束手形を偽造したことは前記認定の通りであり、証人松井実、同橋本浩二、同原科甲子男の各証言並び右松井証人の証言に徴し成立を認めうる甲第一号証を綜合すると竹内義行は訴外松井実を介して原告に対し右手形の割引を依頼したので、原告は右松井等を介して被告会社に対し右約束手形の真否を照会したところ訴外諸角一雄は被告会社の経理課長として本件手形の金額、満期日等の要件を調査した上、右手形は被告会社が真実に振出したこと、満期日には支払う旨言明した結果、原告はこれを信頼して右手形(外二通と共に)の割引を承諾して右手形金を竹内に交付するに至つたこと、その後原告は自己の取引先の朝日信託銀行に右手形を白地裏書して割引をえていたところ、右竹内義行は右手形は偽造手形であるから被告会社が満期日に決済しないことは承知していたため、自己が右手形の決済資金を金策する予定であつたが、これができなかつたため、右手形の満期日(十月十五日)前から原告に右手形の買戻を懇請した。原告としては右手形が不渡になつた場合自己の取引銀行である前記朝日信託銀行に対する信用上のことを考慮した結果、右手形の買戻を承諾し右満期日の翌日の昭和二十五年十月十六日に右手形の支払担当者富士銀行品川支店に右手形金百万円(外に七千円は竹内が支出した)を支払つて右手形を買戻してこれを再び取得して所持人になつたことがそれぞれ認定することができる。右認定と牴触する証人諸角、竹内両証人の証言の一部は採用しない。
以上の認定事実によると原告は訴外諸角一雄等の偽造にかかる本件約束手形を同人の言明により被告会社が真実振出したものと誤信した結果、竹内義行に対し右手形の割引金名義で右手形金を交付したが、右手形が前記の通り偽造手形であつたため振出人の被告会社から右手形金の支払を受けることができなかつた次第故結局原告は右諸角一雄の右不法行為により右手形金に相当する損害を被つたものと言わねばならない。
被告会社は諸角一雄の右不法行為と原告の損害との間には因果関係がないというけれ共、損害とはある加害事実(不法行為)の生じた現在の財産状態と右の加害事実がなかつた場合の財産状態との比較による差額であるというべきであるから、原告が本件偽造手形の割引のために支出した金額はその後前記認定の通りの事実関係の発展にも拘らず未だ回収にならないのである故結局原告が右手形の割引のために支出した金額は右諸角一雄の不法行為に因る損害と言わねばならない。
(三) 次に被告会社経理課長諸角一雄の右不法行為はその使用者被告会社の「事業の執行に付」なされたものと言うことができるかどうかについて判断する。思うに右民法第七百十五条にいわゆる「事業の執行に付」との趣旨についてはかつて大審院が判示(昭和八年四月十八日言渡)したように「放漫の慎むべきは論なきと共に過度の小心翼々も亦これを警めなければならない」ことは勿論であるのでこの点について審に稽えてみるに、およそ被用者が不法に他人に損害を加うるが如き行為は当然それ自体違法の行為であると言わねばならないから本来適法な使用者の事業の執行行為に属するということはできない訳けであるので形式的に厳格に言えばかかる行為は全て使用者の事業の範囲に属しない行為と論定されなければならない運命にあるものと言わねばならない。従て被用者の行為が違法であるとの故を以てすべてその職務の範囲外の行為であると解するならば民法が第七百十九条の共同不法行為者に対する規定の外に第七百十五条を特に設けて大企業の経営者はその巨大の利益を取得する一方、その企業自体に包蔵せられる危険より生ずる損害もこれに負担せしめようとして報償責任の制度を認めた法の精神は全て失われるものと言わねばならない。
従てその使用者の事業の範囲も客観的に合理的に定めなければならないし、又被用者の行為もそれが事業の執行につきなされたとするには企業の組織体におけるその担当する職務についてなされた行為でなければならない訳けであるが、その担当する職務の範囲は単に企業内部の分担規則を形式的に解して定むべきでなく実際の運営されている実態からみて外形上その担当する職務の範囲内の行為と見られるものは結局使用者の事業の執行につきなされた行為と認めねばならない。
よつて本件についてみるに証人諸角一雄、同三井季夫の各証言によると被告会社で手形を発行する場合はまず仕入課で商品を仕入れると仕入伝票を作成して経理課に廻し、且仕入先よりの代金の請求があると支払票を作成して経理課に廻付する。経理課は仕入伝票と右支払票とを照合した上支払票に基いて振替伝票を作成して自ら保管する約束手形用紙に所要事項を記載し総務課保管の会社の社印、代表取締役名のゴム印を押捺して経理課長は手形発行一覧表に記入してから振替伝票とともに代表取締役に廻し取締役は右一覧表と手形とに割印をし、且代表取締役名下に代表者の印鑑を押捺してここに初めて手形が完成するのでこれを仕入課から請求者に交付していた事実を認めることができる。
以上の事実関係に徴すると被告会社における手形発行の事務は被告会社の営む事業としては重要の事務であるから本来は代表取締役の専らこれに当るべきであるが、事実上それが不可能であるので組織体としての被告会社は経理課の事務としてこれを担当せしめていた。よつて右の通り代表取締役がその名下に印鑑を押捺するのは自己に代つて経理課のした右手形発行に関する叙上の事務の処理を承認する意味も含んでいたものと推認することができる。又前記認定した通り外部から被告会社に対する手形に関する照会等のあつた場合経理課が之に対する回答をする等の事務は本来、被告会社の事業とは認め得られないが、少くとも右事業の執行を助長するための附随的の事務と解しなければならない。
しかして諸角一雄は経理課長として前記経理課の分担する事務全体を統轄処理すべき職務上の地位にあつたのであるから前記認定の(二)の同人の行為は右不法の点を除けば外形上右職務の範囲内の行為と見られる故結局被告会社の事業の執行につきなされたものと解するを相当とする。
従て被告会社は被用者諸角一雄のなした前記不法行為に因つて原告の被つた損害を使用者として賠償責任があるものと言わねばならない。
(四) しかるに被告会社は右経理課長諸角一雄の選任、並び事業の監督に過失がなかつたから前記賠償責任はないと主張するのでこの点を審査するに前示諸角、竹内、三井の各証人の証言並び弁論の全趣旨によると諸角一雄は大正九年六月一日株式会社三越に雇われ、同二十三年一月迄同社に在任し同社品川縫製工場経理課長に昇進したが、被告会社が右三越から独立して別に被告会社を設立したので昭和二十三年二月被告会社の経理課長となり同二十五年十月十日退社したのであるが、以上の経歴と経緯とに鑑みると被告会社として右諸角の選任については過失があつたと認むべき特段の事由は認められないが事業の監督について過失のなかつたことを認むべき証拠資料はない。
反つて前掲の諸証拠を綜合すると、右諸角一雄が被告会社代表者の印鑑を盗用して訴外竹内義行のために約束手形を偽造したのは昭和二十四年十二月以降右偽造が発見された昭和二十五年十月迄でその間八十四枚金額にして合計五千四百三十七万円に達し現在なお未解決の手形は十六枚で金額一千九百三十七万円であるが、被告会社が右の事実を右の相当長い期間中に発見できなかつたことに対する経理事務の処理方法の欠陥、右手形の偽造に使用された代表者の印鑑の保管方法になお周到なる用意の足りなかつたことを疑うに足る事情から推認すると被告会社が右事業の監督について過失がなかつたことを確認することはできないから被告会社は前叙賠償責任を免れることはできないものと判定する。
叙上の次第故被告会社は原告に対し金百万円及びこれに対す原告主張の限度である昭和二十六年七月二十九日以降完済迄民法所定の年五分の損害金を支払うべき義務があるから原告の本訴請求を正当として認容すべきものとする。
第三、原告の被告(破産管財人)に対する請求について審理する。
竹内義行が昭和二十六年五月二十二日東京地方裁判所で破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任されたことは原告の争わないところである。
竹内義行が原告主張の本件約束手形に、支払拒絶証書作成義務を免除した白地裏書をしたことは被告の認めるところであつて成立に争のない甲第三号証の附箋の記載によれば右手形は適法に支払のための呈示のあつたことが認められる。しかして本件手形は前記第二の(二)に認定の通り原告が買戻によつて現にその所持人となつたことが明であつて右の認定に反する証人竹内義行の証言部分は採用しない。
従て竹内義行は右手形の裏書人として右手形所持人である原告に対して本件約束手形金の中原告主張の金百万円の償還義務及びこれに対する満期日の翌日昭和二十五年十月十六日より完済迄年六分の法定利息の支払義務があるものというべきである。よつて原告の被告に対する本訴請求は正当として認容する。
しかし仮執行の宣言は相当でないからその申立を却下し民事訴訟法第九十三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 佐野英雄)